臓腑論(蔵象学説)

蔵象学説とは

人体の臓腑の生理機能と病理変化およびその相互関係は蔵象学説に示されています。

蔵とは
・人体の臓腑
・人体内部の深くに隠されたもの
という二つの意味を有しています。
後世になると二つの意味合いが明確に区別され、臓腑を表す際には臓の字を使うようになりました。

象とは
・臓腑の生理機能や病理変化の外面的な表れを示す
・取類比象(取類比象)をさし、抽象的概念や複雑な事物を日常的に取り入れやすく、具体的に例え理解しやすいようにすること
という二つの意味を持っています。

蔵象学説とは
臓腑組織器官の名をつけて、機能や形態、生理機能と病理現象を観察した結果を、陰陽五行説に基づき当てはめて、五臓を中心として形成された概念となっております。

・臓腑学説における各臓腑は、解剖学的な臓器ではなく、生理的な機能単位になっています。
・臓腑の機能は生理機能と病理変化を緊密に融合させたもので、生理機能から病理変化を、病理変化から生理機能を知ることが出来るうる考え方です。
・五臓を中心に六腑、五官、形体などの組織器官を関連付けた五系統としてとらえています。各系統内に縦の連携だけでなく横の連携もあり、人体を五臓を中心に整体としてみなしています。
・人体を整体としてとらえ、臓腑系統と外界環境と密接な連携があるとして人体と外界の整体性も重視します。つまり、季節や気候を五行を用いて臓腑と関連付けて統一体とみなしています。

臓象学説の考え方は、五臓を中心として、五臓六腑、五官、奇恒の腑、臓腑と肢体、五官九窮の関係、臓腑と精神思惟活動の関係があります。

五臓

肝心脾肺腎を五臓と称しています。ここに心包を合わせると六臓になります。
五臓は精気の化生と貯蔵が共通した生理特徴を持っています。

合は気化の及ぶところを示しています。
華は臓の機能の外面的な表れです。
志は精神的情緒を表していて、五臓の機能を反映しています。

横隔の下に位置していて、胆と表裏の関係になります。

生理機能

疏泄・条達を主る

肝が気機を疏通・調暢する機能を示しています。
疏は疎通、泄は昇発・宣泄を意味しています。

気機の調暢

肝気は疏泄を通じて全身の気機を
昇発
通達
舒調
にし、臓腑・気血・経絡・器官の活動をのびやかにします。

肝の疏泄が正常であれば、気機はのびやかであり、気血は調和し経絡は通利して臓腑・器官も正常に活動していきます。

疏泄の異常は気機の失調を起こし、種々の病変を引き起こしてしまいます。
・肝気の鬱結
胸協・乳房・下腹などの張った痛み

・肝気の横逆で胃が犯される
上腹部の疼痛・悪心・嘔吐・噯気

・肝気の横逆で脾が犯される
胸協から腹部の張った痛み・腹鳴・腸鳴・下痢

・気滞から血瘀が生じる
癥積(腹腔内の腫塊)・痞塊(しこり)が形成される

・気鬱化火して血の消耗・出血
肝の蔵血作用に影響が出る

運化の疏調

肝は疏泄により気機をのびやかにし、脾胃の腐熱と運化を推動するとともに、胆汁の分泌を調節しています。

疏泄の失調は脾胃の運化と胆汁の分泌・排泄に影響が及んで消化機能に異常をきたします。
・肝気欝結
胸肋部が張って痛む・イライラする・怒りっぽい

・胃気不降
悪心・嘔吐・噯気

・脾気不運
腹満・腹痛・下痢

情志の調暢

精神情志活動は心神が主宰する以外に寒の疏泄と密接に関連しています。
疏泄が正常で肝気が昇発し興奮や抑うつがなくのびやかに条達していれば、愉快で気持ちがのびのびし、理知で清明で思考は鋭敏であり、気分も落ち着いています。

肝の疏泄が失調すると、精神情志の異常が容易に発生します。
・疏泄の不及
気分の抑うつ、孤独で楽しくない、憂うつ、かなしみ、心配、噯気、ため息
寡黙、痴呆状態、ぼんやする、悲傷して泣く

・疏泄太過
興奮、いらいら、怒りっぽい、不眠、夢をよく見る、頭が張って痛む、顔面紅潮、目の充血、妄言失態、騒ぐ、高所に上る

血を蔵す

肝が血液を貯蔵し、血流量を調節する機能を持っています。
人体各部の血流量は生理的変動に応じた変化があり、活動には大量の血液を全身各所に分布をして需要をみたし、休息時や睡眠時には一部の血液を肝に貯蔵します。

蔵血の障害
肝血不足
目が濡養されない(血不栄目)のとき…目の乾燥感、異物感、目がかすむ、夜盲
筋が栄養されない(血不養筋)のとき…筋肉の引きつり、肢体のしびれ、運動障害
血海が空虚になるとき…月経血量の減少、無月経(閉経)

血液の妄行
肝不蔵血
吐血、鼻出血、月経過多、不性器出血などの出血傾向

筋を主る

肝血と筋の密接な関連を示しています。
筋は腱や筋膜に相当し、関節・肌肉が連結して運動を行う組織です。関節・肌肉が収縮弛緩することによって肢体・関節の屈伸や転側は自由自在に行えます。
この機能は肝血の濡潤によって維持できるので、肝は筋を主る、肝は運動を主るといわれています。

肝血の不足で筋を濡養出来ないと
筋肉の引きつり、しびれ、運動障害

肝風内動
手足の震え、けいれん、後弓反射

目に開竅する

肝は目に関連が深いことを示しています。
五臓六腑の精気は目に上注していて、その主体は肝血です。
肝は血を蔵し、経脈は目系に連なっているため、視力は主に肝の陰血の濡養に依存しています。
このため、肝の機能状態は目に反映されやすいので、肝は目に開竅するのです。

肝血不足
目がかすむ、夜盲
肝陰虚損
目の乾燥、異物感、視力減退
肝火上炎
目の充血、腫脹、疼痛、角膜の浸潤、混濁、潰瘍
肝胆湿熱

肝風内動

華は爪にある

肝血と爪は関連が深いことを示していて、爪の色沢・形態の変化は肝の生理・病理を判断する要素になります。
「爪は筋の余たり」ということが言われていて、肝血の盛衰は筋だけでなく爪にも影響を及ぼします。
肝血の充足していれば、爪は堅く紅潤で光沢があります。

肝血の不足
爪が軟らかく薄く淡色になる
変形やもろく裂ける

涙は肝液である

肝は目に開竅しているので、肝と涙の関係性が深いことを表しています。
涙は眼球を濡潤して保護しています。異物が目に入ると、大量に分泌されて異物を排除し、眼を清潔にしています。

肝の陰血が不足すると涙の分泌が減少します。
目の乾燥・異物感が生じ、風火赤眼や肝経湿熱では目やに、風邪に当たると涙が出るという症状が出ます。

志は怒である

肝気が怒りと関連しています。
怒は悪い刺激であり、大怒すると肝の気機が逆乱して肝陽の昇発太過になります。
そうなると、血が気と共に上逆し血を吐いたり昏倒する気厥を引き起こします。

肝の陰血不足
陽気を抑制できず、肝陽の昇発太過を引き起こし、少しの刺激でも怒りっぽくなります。

生理的な特性

肝は条達を好み、抑うつを憎む

肝は風木の臓で疏泄を主っています。
春に樹木が枝や根をはり、精気が充満するのと同様に
肝気は昇発・柔和であり、抑うつも興奮もなく穏やかに条達します。

肝気の昇発不及になって鬱結すると
・胸協部の張り
・憂うつ
・楽しくない
という状態になります。

肝は剛臓である

剛は剛強暴急という意味を持ち、肝の病変である、急躁・けいれん・強直・動風など肝陽の過亢による急激・緊張・躁動を呈する症状が現れやすいことを示しています。

「陰を体とし陽を用とす」といわれていて、
肝の陰血のもとに陽気が作動して、肝陰の柔潤によって肝陽の剛強を抑制して和らげています。

肝の陰血が不足すると肝陽を抑制することが出来なくなり、疏泄が失調して剛急の症候が現れやすくなります。
この場合は、肝の陰血を補うことで肝陽を調整する治方が使われていて、「柔肝」といいます。

肝気は春に通じる

肝は五行の木に属しています。
五行式体表の中では、東・風・木・青・酸が関係しています。
春三月は厥陰肝木の主令になります。

心は胸腔に位置していて、心包が外側を包み込んでいます。
腑である小腸と表裏関係をなしています。

生理機能

血脈を主る

心は脈管内で血液の運行を推動する機能を持ちます。
血脈は、「血を主る」ことと「脈を主る」という二つの側面を持っています。

血を主る
血を主る

血の生成を行っています。
脾胃が運化した水穀の精微を心陽の温煦を通じて血を化生

血の運行をしています。
心気の推動によって全身に絶え間なく循環させている

脈を主る
脈を主る

心の拍動によって脈管内で血を運行すると同時に心と経脈が連結している

心気の暢達があって脈道が通利する

心の働きは西洋医学における心臓と血液循環の関係と一致しています。

心気と心血

心気が血液を推動する一方で、心気と血脈は血液によって濡養される必要があります。
心を濡養する血液は「心血」と呼ばれ、心気を産生する基礎物質です。
心血と心気は相輔相生によって生理機能を維持しています。

神明を主る

神明とは精神・意識・思惟などを表しているので、心は精神思惟活動を主宰していること示しています。
このことから、心は神を蔵すともいわれています。

心の機能が正常で気血が充盛していれば、意識が明瞭で思考も敏捷です。

心の病変では精神・意識思惟活動が異常になり、
焦燥感(心煩)
驚きやすく、動悸がする
睡眠が浅い
多夢などの心神不寧などが現れる
重篤になると、
昏睡・昏迷などの意識障害
痴呆
せん妄
狂躁などの精神異常が現れる。

合は脈、華は面にある

心気と心血の充足度が、脈象と顔色から判断できるということを示しています。

心気が旺盛で血液が充盈していれば、脈象は緩和でリズムよく均等で有力です。
顔色も紅潤で光沢もあります。

心気の不足は
拍動の無力
血の運行の滞り

心血の不足
脈道が空虚
脈象が細弱、無力あるいは促、結、代脈
顔色は蒼白あるいは暗晦、青紫

舌に開竅する

舌は心の苗たりと言われています。
心経の経筋と別絡は舌に連なっていて、心の気血は経脈を通じて舌に上通しています。
舌体の色沢と形態を保持して機能を発現させているので、舌を観察することは心の状態を知ることが出来ます。
心の機能が正常であれば、舌質は紅潤で舌は自在に活動でき、味覚も正常です。

心血の不足
舌質が淡泊

心火が亢盛
舌尖が紅く腫れて痛む
口内炎

心血瘀阻
舌質が紫暗、瘀斑
痰迷心竅で舌が強張る

心脾熱盛
吐舌、

汗は心液である

志は喜である

生理的特性

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