東洋思想で人体を見るときには、人体を構成する基礎物質が5つあります。
それが、
気・血・津液(水)・精・神
です。
それぞれを解説していきますが、ボリュームがかなり多く一回で読み切れる内容ではありません。
少しずつ進めていただけると幸いです。
気
気とは、古代中国の思想になります。
古代人は、雲霧・蒸気・大気など
形状がはっきりしていないものを認識していました。
「質有りて形なし」と表現されたのが気という概念になります。
・自然界すべての者はさまざまな微細な気から構成されている
・気は最も基本的な物質
・すべての事物は気の運動変化によって産生される
この三つの考え方が気の根本的な考え方です。
このような古代の哲学における根本的な思想は、
次第に人体にも結び付けられることとなります。
気は
「人体を構成し、生命活動を維持するために必要な最も基本的な物質である」
と考えらるうようになりました。
ですから、人は気が聚合したものであり、気が聚合しなくなれば
生命活動が停止し、形体も消滅するとみなしています。
気の生成
気の生成は、腎陽の蒸騰を元に、
・脾胃の運化によって飲食物から得た水穀の精微
・肺が吸入した精気(空気)
の二つがあわさることによって形成されます。
腎精から生化する腎陽の蒸騰が重要な作用を果たしています。
気の成分には、腎の精気が含まれますが、
腎の精気は水穀の精気から補充されながら機能を発揮しています。
気の生成には脾胃の運化が非常に重要になっています。
気の分類
気は全身に広がり、循環していますが、
部位や質によって機能や役割の違いがあります。
元気(真気・原気)
本来の意味は、先天の精である命門の火を指しています。
元気は、腎の蔵する先天の精が後天の精(水穀の精微)
の充養を受けて、腎精から発生します。
元気は三焦を通じて、
・五臓六腑
・肌膚腠理
などを巡り、全身に回ります。
元気の役割は、
・成長発育を促進
・臓腑・経絡・組織・器官の機能促進
・生命活動の原動力
というものになっており、
元気が多ければ、生命力が強く体質は強健であり、
めったなことでは病気にならない体といえるでしょう。
宗気:胸中大気
宗気は
腎陽の蒸騰の元、脾胃が運化し肺へ上輸した水穀の精微が、
肺の吸入した清気と合わさって生成されたばかりの気のことを言います。
宗気の所以は、「気の宗(おおもと)たるところ」にあります。
宗気は胸中に聚積された後に、心肺に移送され
肺の呼吸運動と、心臓の鼓動によって全身へ送り出されるのです。
胸中は宗気が集まっているところとして、
気海と呼ばれています。
宗気の機能
・呼吸の通道を充養して呼吸運動と発生の機能を維持する。
・心脈において、心の行血を助ける。
宗気はこの役割を持っています。
肺における呼吸と音声、心における気血の運行、心の拍出力において、
宗気は密接に関連しています。
営気・栄気
営気は営とも表記しされていて、営運や栄養の意味を持っています。
営気は血と共に脈中を運行する気であり、
血と区別は出来るが、切り離すことはできないため、
営血と併称することが多くなっています。
血にある営気は脈管外を通る衛気と相対させると、
営気が陰に属して、
衛気は陽に属しています。
営陰:衛陽
営気は中焦で水穀の精微から生じて血脈に入っていき、
血脈中を循行し、全身の上下内外を運行いています。
営気の主な作用は2つです。
・全身の臓腑、経絡、組織、器官を栄養して生理活動を推進すること
・血液を化生して血液成分になること
衛気
衛気は脈外を運行している気になります。
(営気と相対して衛陽と呼ばれています。)
腎から発生される元気がもとになり、腎陽の蒸騰気化を通じて
水穀の精微から化生し、肺の宣発作用により全身を巡っていきます。
活動力が強いので、運行が速く、脈道に拘束されません。
衛気の運行には法則性があり、
日中は陽経を巡り、夜間は陰経を巡ります。
陽経と陰経を25周ずつ巡るので、1日に50周することになります。
日中は衛気が陽を巡っているので、元気に活動が出来ます。
夜間は衛気が陰を巡っているので、静かになって眠ることが出来ます。
衛気の重要な役割は、上記三つになります。
三つの役割はそれぞれが相互に連携していて、
肌膚は衛気の温養を受けて、衛外の機能を保ち、腠理と汗孔の開閉を通じて衛外の機能を発揮します。
営気と衛気の関係性
営気と衛気はともに水穀の精微から化生されています。
営気は脈中を、衛気は脈外を走行していて、
営気は内を守って陰に属し、
衛気は外を守って陽に属します。
両者は相互に協調しあいながら平衡を保っています。
また相互に転化することもあります。
営気が脈外に出て衛気になり、衛気が脈内に入り営気となります。
ここでも陰陽の関係性が成り立っています。
臓腑の気
臓腑に分布している気を、臓腑の気といいます。
臓腑特有の機能を発現します。
肝気・心気・脾気・肺気・腎気
胆気・小腸気・胃気・大腸気・膀胱気
脾気と胃気を合わせて中気と呼ぶ
経絡の気
経絡中を走行している気を経絡の気(経気)と呼びます。
元気・営気・衛気の密接な関連性を持っています。
走行している経絡によって気や血の割合が異なっています。
気の機能
気は存在している部位によって、異なった機能を持っていますが、
共通している気の機能を紹介していきます。
推動
血液の運行・水液の輸布と排泄・経気の循環などの流れるものは
気の推動作用によって行われています。
気が虚衰したり、うっ滞して推動作用が弱まれば、
結構の遅緩・水液の停滞・経気のうっ滞が発生してしまします。
温煦
温煦の煦は温陽の意味を持っています。
気の温煦作用は人体の熱を作ることです。
気の温煦によって体温は一定に保たれていて、
体温が一定であるからこそ、
臓腑・経絡・組織・器官も正常に維持されています。
温煦と推動は密接に関連していて、
温煦が不足すると、推動の低下、四肢の冷え、体温低下などが生じ、
血液の運行も遅緩してしまうのです。
防御
衛気の機能を中心として、
気・血・津液及び、臓腑、経絡の協同された複雑な機序があって、
生体の防御システムが発揮されます。
・外邪の抵抗と排除
・擾乱に対する自己調整
・破壊に対する自己修復
この3つにたいして、衛気が重要な役割を担っています。
全身の肌表を固護して外邪の侵入を防ぎ、侵入した邪と相争して排除し、正常な状態へと回復させている。
固摂
固摂の漢字を分解すると、
固…固護
摂…統摂
という意味を持ちます。
固摂の作用は、
血や津液を固摂して一定の通路を循行させ、
通路から溢出・漏失させない働きや、
汗・尿・唾・涎・胃腸内の水・精液などを
正常に分泌し、過度に排泄させないようにしています。
固摂が機能しないと
- 各種出血
- 自汗・多尿・尿失禁・よだれ・下痢
- 遺精・滑精・早漏・帯下
これらの問題が生じてしまいます。
気化
気化とは、物質の転化機能を表しています。
物質の転化は主に気・血・津液・精の生成及び、相互転化となります。
気・血・津液・精は水穀の精微と外界の清気が原料となり生成されます。
水穀の精微と外界の清気が、気の気化作用によって物質転化を起こし、
気・血・津液・精を生成しているとい言い換えることが出来ます。
また生成は臓腑の働きによって起こります。
下記にまとめたのでチェックしてください。
- 気の生成
脾・肺・腎が関与 - 血の生成
脾・肺・心・腎が関与 - 精の生成
五臓すべてが関与 - 津液の生成
肺気の宣降・脾胃の運化・腎陽の蒸騰が三焦を通路として行う。
三焦気化という。
腎陽の蒸騰による水液の気化が重要。
生成された気・血・津液・精は、一定の条件下により、相互に転化します。
これが気の気化作用になります。
- 精は気と血に転化する。
- 水は気と相互に転化する。
- 気は血に化生する。
このように気化とは、臓腑の機能を通して、気血水精を生成したり、相互転化することです。
気の運動形式・気機
気は全身のあらゆる場所を休みなく流れています。
この休みなく流れるさまを運動形式と捉え、4つの運動に分類しています。
4つの運動形式:昇・降・出・入
気の昇降出入の運動は臓腑の機能として表れています。
肺では呼気が出、吸気が入に当たり、宣発が昇、粛降が降です。
脾胃において、脾が昇清、胃が降濁を行します。
肝胆と腎において、肝胆は宣発、腎が蔵納をを行っています。
このように、気が昇降出入を行って、生理機能を発現し、推動作用によって生命活動を円滑に行っています。
また、臓腑の機能で必ず、4つの運動形体をとっているかといえばそうではなく、
臓腑全体としてみた時に、4つの運動形態が協調し、
平衡状態を保っているためバランスよく臓腑の働きが存在することが出来るのです。
言い換えると、気の昇降出入活動が停止することが、生命活動の停止の同義になります。
昇降出入は陰陽の関係性をとっています。
昇・降と出・入は対立的な立場であり、統一された存在であり、
身体全体での活動で平衡状態を保っています。
4つの運動が協調し平衡状態を保っていることを、気機調暢といい
そうでなければ、気機失調と呼びます。
血
血は脈中を循行して、栄養や滋潤に働く赤色の液体を指します。
人体の構成成分であって、生命活動を維持する重要な役割をもっています。
血は脈中を走行して初めて、持っている生理機能を発揮することが出来ます。
脈外にこぼれ出た離経の血は機能を持たずに、発病因子となってしまいます。
脈は営血(血液)が循行する菅道であり、血府とも呼ばれます。
血の生成
血は水穀の精微が化生されて生成されるパターンと、
腎精化血で生成されるパターンがあります。
水穀の精微が化生されて血となる
飲食物が脾胃の運化を受けて、水穀の精微に転化した後、
水穀の精微は営気によって脈中へ流入し、
肺に上輸されて精気と合し、心火(心陽)の温煦作用を受けて
赤く変化し、血となっていきます。
腎精化血
腎陽の温煦作用によって腎精が血に転化して脈中に入っていきます。
精血同源
精と血は相互に資生と転化の関係を持っているので、精血同源といわれています。
血液とは
東洋医学でいう血液とは、
・紅色の「血」
・水穀の精微からなる「営気」と「津液」
から成り立っています。
ただし血液のことを「血」「営血」とも呼称されるので、
東洋医学では明確に区別されていません。
血の分類
陽気に対して「陰血」、衛気に対して「営血」と呼ばれています。
分布する部位によって名前が変わる特徴を持っています。
心血
心は血脈を主り、脈は血液の道として存在し、心は血行を推動する作用を持っているので、心と血には明らかな関連性を持っています。
心は脈を蔵し、脈は心を舎す。
『霊枢・本神篇』より
と書かれています。
心血が充足し、血脈がきちんと流れていると、心神は安定して活動することが出来るということです。
肝血
肝の作用に血を蔵すというものがあります。
また血流量を調節して
・臓腑・経絡・組織・器官を濡潤する
・感覚・運動・月経を正常に維持する
という役割があるので、心と共に血の調整を行っています。
血の機能
血の機能は
・全身の滋潤
・心神を濡陽して、意識を鮮明にする
・視覚などの感覚や運動機能を正常化している
の3つになります。
これらの機能が果たされるために臓腑との関連があり、
心や肝が血の機能を維持しています。
血液の運行
血液の運行は気の作用によって安定しています。
【気の作用】
・推動作用によって血は運行している。
・固摂作用によって脈外に溢れないようになっている。
推動作用は心気の鼓動によって起こり、肺の治節作用によって心の拍動は一定を保たれています。
心と肺によって血液を安定して運行しているのです。
また、肝は疏泄作用で、全身の血流量を調整しています。
津液(水)
津液は、生体におけるすべての生理的作用を持つ水液の総称をいいます。
生理的作用を持つ水液=臓腑や組織、器官に内在する液体及び分泌物
・肺津
・胃液
・腸液
・鼻汁
・涙
・涎
・汗
・唾液
・尿
これらすべてが津液としてとらえられています。
津液の分類
津液は
・性状
・機能
・分布部位
によって、違いがあり、津と液に区別されます。
津と液は相互に転化をおこすので、津液と併称されています。
津
津は清く、希薄で流動性が大きい特徴を持っています。
気と共に三焦を流れており、血液成分として脈管内を気血と共に運行しているのです。
全身をくまなく分布しており、肌膚腠理の間に布散しています。
液
液は濁っており、粘り気があり流動性が小さく、限定的に存在しています。
分布場所
・骨
・関節
・臓腑
・脳
・髄
・眼
・口
・鼻
津液の生成と輸布・排泄
津液は
・腎陽の蒸騰気化のもと
・脾胃の運化によって飲食物が水穀の精微から生成された水液
です。
できた津液は、二つの経路をたどります。
・1つ目:一部は脈中に入って血液成分となり全身に流れる
・2つ目:多くは、脾の昇清作用で肺へと送られ、肺の宣発作用で三焦へ布散される
全身へ送られた津液は
・汗液として対外に排泄される
・全身を栄養、滋潤したのちの廃液(濁)は肺の粛降作用で膀胱へ至る
水穀の精微から清が吸収された残り物である濁は腸へ下り、さらに清濁を分別して、
・清を脾へ
・濁を膀胱と大腸へ
送り、大腸が濁から水液のみを吸収します。
津液の輸布と排泄において、重要な腎の蒸騰気化です。
・脾胃の運化
・肺の水道通調
・小腸の清濁泌別
・大腸の水液吸収
・濁からさらに抽出された清を肺へ蒸騰
・膀胱を開閉して尿の排泄を調整
これらの役割を担うのが腎となります。
「腎は水を主る」
津液の機能
津液の機能は滋潤と濡養です。
・肌表に布散して肌表と皮毛を滋潤する
・孔窮に流入して、眼、鼻、口、舌を滋潤して保護する。
・血液中に滲注して、血液の成分となって血脈を充養し滑利する
・臓腑に灌中して陰を養う
・骨に滲入して骨髄や脳を滋潤する
精
精には広義の意味と狭義の意味があり、使われ方が違います。
広義の意味では、人体を構成し生命活動を維持する基本物質であって、気血津液水穀の精微のすべてが含まれます。
狭義の意味は、腎が蔵する精です。
ここでは、腎が蔵していいる精を解説していきます。
精の生成・分類
精は先天の精と後天の精に分かれています。
腎精と血は相互転化を起こすので、精血同源といわれています。
先天の精
父母の生殖の精が結合して胚胎したときに生じ、腎に貯蔵されます。
呼び方は種類があり、
・元精
・元陰
・真陰
・命門の陰
と呼ばれています。
出生後に後天の精によって充養されて盛んになり、
成長・発育
生殖・繁殖
これらの基礎物質となるため、生殖の精とも呼ばれます。
後天の精
五臓六腑の精と呼ばれ、水穀の精微が五臓六腑に輸布されて化生した精のあまりであり、
腎に絶え間なく下注して先天の精を充養し、腎精を形成しています。
腎精は腎陰ともよばれ、五臓六腑の陰液の根本となります。
命門の火
先天の精は、後天の精に絶え間なく充養されて充盛し、
先天の精から生発する命門の火(元陽・真陽)をもとにした腎陽の蒸騰気化のもと、
五臓六腑が活動して後天の精を産出します。
腎精を形成した後は、先天と後天を分離することが出来ません。
腎精は命門の火によって蒸騰気化されて肺に上達し、宗気と合して衛気を化生します。
精の機能
腎精は誕生後、後天の精から充足をうけて次第に盛んになり、青壮年期にて最も充実していきます。
その後、中年以降腎精が衰え始め老年期以降は衰小し、やがて枯渇します。
人体の成長・発育・成熟・老衰・死亡という過程を表しており、人体の成長発育の根本的資源でありながら生命活動をする維持する基本物質となっているのです。
腎精が充実していれば、元気は旺盛であり臓腑組織器官の機能も正常になります。
また腎精は胚胎を発育させる原始物質で生殖と種族保存のための基礎物質となっています。
女性は14歳前後、男性は16歳前後に腎精・腎気が盛んになって
生殖能力をもつ物質である天癸(てんき)が産生されます。
女性は月経が規則的に現れ、男性は射精可能になります。
中年から老年は腎精が衰えて天癸が枯渇してくるので、
女性は49歳前後、男性は64歳前後で生殖能力を失います。
神
神とは自然界の神と人体の神に分けられています。
自然界の神は事物の変化に内在するエネルギーであり、陰陽変化の趨向です。
水が陽気の蒸騰にによって蒸発し雲になり、陰気の凝結によって雨になって下降し、陰寒によって凝集して霜や氷になり、陰寒が盛んでなければ露になる
このように自然界の事象の変化はやむことがありません。
事象の変化が多端で極まりないことを自然界の神として表しています。
人体の神には二つの意味があります。
1つ目は生命活動を外敵に表現するときです。
・姿形
・顔色
・眼光
・語声
・肢体の動き
等を神と表します。
2つ目は心がつかさどるものです。
・神志
・意識
・思惟
などの活動を神と表しています。
神の生成
人体における広義の精
先天の精気から化生して後天の水穀の精微の供給によって盛衰します。
精気が充実して気血が旺盛であれば、元気があり顔色もよく光沢があり、眼光に力と正気がでて、四肢は軽やかに動き鋭敏となります。
この状態を有神または得神と呼びます。
精気が不足すると、元気がなくなり、顔色が悪く艶がなくなり、眼に精彩がなく肢体にも力が入らくなり鈍重です。この状態は失神と呼びます。
病気があっても得神の状態であれば予後が良好ですが、失神の場合予後不良が多く、死に至るケースです。
狭義の神
血が十分で血脈が通暢になって心を養うことによって発現します。
神は心がつかさどるが、五臓とも関連が深い五神の区別もあります。
五神
・神:心は神を宿す
・魂:肝は魂を宿す
・魄:肺は魄を宿す
・意:脾は意を宿す
・志:腎は志を宿す
神は相対的に心がつかさどり、
・肝の蔵血と関連した意識下にある魂が神を補佐
・肺気が充盛すると気と精が充実して体力と気魂がある
・脾気が充足していれば意念が鋭敏となる
・腎精が充盛していれば意志の決定が明敏である
五神の異常は
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